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嫉  妬

NEIL / ALLELUJAH
LYLE / ALLELUJAH




「アレルヤ。・・・嫉妬ってしたことあるか?」

 プトレマイオスの狭い個室の狭いベッド。

 互いの体に腕を回して、抱き合っていた。

 求めあった後の、気だるい余韻に、僕は少し不注意になっている。

「教えろよ」

 優しい指先が、僕の耳朶を弄んでそそのかす。

「チーム・トリニティを、正式に敵性と認識した時のことだよ」


                   *

 ロックオンと刹那とティエリアは、地上でトリニティと対峙していて、僕はトレミーに残った。

 彼らが帰還した時、あきらかに雰囲気が変わっていたので、僕は驚いた。

 ブリッジを出た僕が、部屋に戻ろうとすると、ロックオンは、追いかけてきて僕を部屋に連れて行っ

た。

 トレミーの個室にはソファなどないから、僕はベッドに、彼はデスクの前の椅子に座った。

 僕は、なんとなく居心地が悪くて、早く自分の部屋にもどりたかった。寒かったのかもしれない。僕

が、聞かなくても彼は、経緯を説明してくれた。

「ふうん。それで、みんな、あなたの名前を知ったというわけだね」

「まあ、そうだ。刹那がKPSAだったっていうのは、ショックだったがな」

「彼は本名を名乗ったの?」

「ああ。ソラン・イブラヒムだそうだ」

「そうなんだ」

 僕はなんだかそれ以上聞きたくなかったので、立ち上がって、部屋を出ようとした。

「おい。・・・アレルヤ?」

 ロックオンも立ち上がって、僕の手を掴んだ。手袋をしていても、彼の手の温もりが伝わってきた。

「待て、待て」

「なんですか」

「なんですかって。お前なんで、出て行くんだよ」

「なんでって」

 手を引かれて、ベッドに座る。今度は、ロックオンも隣に座った。

「アレルヤ。なんて顔してる」

 翡翠の瞳に覗きこまれて、僕は目をそらした。

「べつに」

 ロックオンは、唐突に、くっ、くっ、と楽しそうに笑いだした。

「何がおかしいのさ。ロックオン」

 僕は唇を尖らせる。肩に腕が絡みついて、引き寄せられた。

「なあ、アレルヤ。キスしようぜ」

 切れ長の目が笑っていて、形のいい唇から白い歯が覗いている。僕はちょっと、戸惑って、彼を見

返す。

「いや・・・です」

「どうして?」

 ふわりと柔らかい髪が頬にふれる。唇を寄せられて、僕は顔をそむける。

「どうしても」

 その抵抗は弱弱しいので、容易く、唇は奪われてしまう。

「やめてよ。いやなんだ」

 ロックオンが、僕の手をとって手にキスをする。

「なにが? キスが?」

 僕は、はっとして、ロックオンを見る。綺麗な笑顔。目がほんとうに楽しいって笑っている。

 この人は、僕といて何が楽しいのかと思う時がある。

「どうして?」って聞くと、「お前さんの反応が面白い」って言う。

 人として当たり前の感情を僕はあまり知らない。ロックオンは、それを僕に教えてくれる。そんな時

はいつも楽しそうで、少し意地悪で、僕は溜息をつきたくなる。

 ロックオンは、僕の手をとって引き寄せながら頬にキスをする。

「何が?」

 もう一度聞かれて、顎を指先で捕えられて、仰向いて彼を見上げる。

「アレルヤ。何が、いやなんだ? 教えてくれよ」

「ロックオン・・・」

 翡翠の瞳を見つめかえす。

「違うだろ。キスじゃないんだろ」

 耳元に囁かれる。

「何がいやなの?」

 僕は、目をつぶり、自分の唇を彼に押し付けた。

「ニール。・・・僕は、みんなが、ニールの名前を知ったことがいやなんだ」

 押しつけただけのキスを受けた唇が、笑みを浮かべる。

「そうかい。・・・アレルヤ。俺を見ろ」

 両手で、頬を掬うように包み込まれて、僕の視界は彼でいっぱいになってしまう。視界だけじゃな

い。頭のなかも胸のなかも彼でいっぱいになる。

「それはさ、やきもちっていうんだ」

「やきもち?」

「そう。嫉妬」

「嫉妬・・・」

 今度は、顎を捕えられて、口を開くように促される。最初は柔らかい唇が下りてきて、それから、

濡れた舌が深く入ってきた。

 僕は、それにそっと自分の舌を絡ませた。

「ロックオン。・・・キスが苦いよ」

「ニールって呼べよ、アレルヤ」

 ゆっくりとベッドの上に押し倒される。

「ニール?」

「可愛いよなあ。やきもち、妬くなんてさあ」

「ニール。意味がわからないよ」

「いいんだよ。お前が俺のこと独り占めしたいってことなんだから。光栄だよ」

 そう言って、唇を塞がれたので、それ以上は質問できなかった。


                   *

 僕が話を終る頃には、僕の耳朶は放置されている。

「で、どうなったんだ?」

「その日は、気を失うほど感じた。同じことをしたのに、全然違ってた」

「そんなことは、聞いてねえ」

「どうしたの? 聞くから、答えたのに」

 同じ顔の男に尋ねられて、僕は溜息をつく。

「知るか」

 彼は煙草を咥え、火をつけた。

 僕は、彼の手首を押さえると、自分から唇を寄せた。

「何をする」

「・・・ライル。キスが苦いかと思って」

 舌を伸ばして、男の唇を舐めた。彼は口元を歪めたけれど、咽喉の奥でくくっと笑う。

「アレルヤ。おまえにリアルネームで呼ばれると、ぞくぞくするぜ」

「それはやきもちなの?」

「妬いてほしいのか」

「どうだろうね」

 僕は首を傾げる。ライルは、僕に手を掴ませたまま、吸いさしを口元に運び、煙を吐いた。2、

3回吸うと、ベッドサイドの灰皿に煙草を捨てる。

「・・・まあ、いい。気を失うほどいかせてやるよ」

「僕が? あなたが?」

「ばあか。お前だろ」

「やっぱり、意味がわからない」

 僕の言葉は、乱暴に奪われて、彼に届いたかどうかはわからない。ただ、口付けは甘く、彼の腕の

なかで、僕は時間を忘れた。

                                     了  2011/8/2



                                   

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