NOVELS


堕天使の楽園 7



 「ロックオン・・・」

 アレルヤの湿った声。キスに満足した時に溜息のような声をだすのがアレルヤのくせだ。
 
 それと、キスの時、時々眼を開けていることがある。

 「キスの時は眼を閉じるって教わらなかった?」ときくと、「ロックオンの顔が見たいから」と答

えた。

 そのロックオンは自分ではないことを、ライルは知っている。


 そんな質問しなければよかったと思うことがある。

 「以前は片眼しか見せていなかったのに、今は両眼を見せているのはなぜ?」
 
 「いなくなってしまった僕の半身に、『君を忘れてないよ』っていう印です」

 「その眼のこと、兄さんは知っていた?」
 
 「はい。いつも、ほめてくれましたから。きれいだって」

 「兄さんは、ハレルヤのことを知っていた?」

 「ロックオンとハレルヤはいつも、喧嘩ばかりしていた」

 「なんで?」
 
 「ロックオンは、僕とハレルヤの両方を欲しがったけど、ハレルヤは僕を独占したがった」

 「で、アレルヤは?」
 
 アレルヤは、ただ、微笑むだけだ。じっと、見つめてくる。


 銀灰と金の瞳に見つめられると、ライルは落ち着かない気分になる。

 誤魔化そうと、耳の下に唇を寄せる。舌の先でくすぐるように舐めると、それを合図のようにし

て、アレルヤの手がライルの服にかかる。

 キスをしながら、互いの制服の上着を肩からから外し、胸のファスナーを引き下ろす。

 互いの服を脱がせあう。これは、ライルがアレルヤに教えたことだ。

 一緒にシャワーを浴びるのはOK。

 大人のキスが好き。

 胸を弄られるのも好き。

 顔が見えるほうが好き。


 アレルヤのくせや習慣を知ることは、過去の恋を知ることだ。

 誰がそれを教えたのかを知っている。その人のことを知りたいと思っている。

 アレルヤは鏡のように、その人の恋を映し出す。

 自分のしていることが、ほんとうは愚かなことだとわかっている。

 好奇心を満たした代償が苦いことくらい知ってる。

 嫉妬は最高の媚薬。

 それを購うくらいには大人なんだとたかをくくっていた。


 「そうやって、ハレルヤの居場所を作って待っているわけだ。で、俺はどっちに嫉妬すればいいの?

兄さんかハレルヤか? ロックオンはどうすれば?」

 胸元に手を入れ、小さな突起を探して、指先で弄ぶ。腕の中で、アレルヤが喘いだ。

「実体があるのはあなただけだ。こうして、触れあうことができるのは」

「ずるいやつだな。お前は、俺に抱かれながら、兄さんを思い出す。過去と現在のふたりのロックオン

を手に入れるわけだ。今日はどうする? 兄さんみたいに、振る舞おうか? それとも、俺流に苛めて

やろうか」
 
 問いかけながら、自分の言葉に傷ついている。


 俺が煙草をやめないのは、兄さんと違う匂いをさせるためって知ってた?

 兄さん、アレルヤは焦らすと欲しがって、自分から腰の位置を合わせようとするのがくせなんだよ。

 今はもう、いない人に張り合って、どうするんだろう。そうは、思うけど止められない。


 終わった後、背を向けたりしないで、キスをして髪を撫ででやる。

 この俺がピロートークなんて、地上の女の子達が知ったら怒るだろうな。

「ロックオン」

 その二色の瞳で、ただ、俺を見て、ほんとうに俺を見て、ほんとうの名前を呼んで欲しくて。

 その仕草に失った人の欠片を求めて。

 今日も、金と銀灰の瞳を見つめて、キスをするんだ。


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                                          了 2009/9/21



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