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堕天使の楽園 INTERMEZZO



                        【寝 言】


「おはよう。ロックオン。時間です」

 僕はトレミーの狭いベッドで眼を覚まし、傍らの温もりに声をかけた。

「ああ・・・」

 僕の隣に眠る人は、だるそうに眼をこすった。だいたい、この人は寝起きの機嫌が悪いが、今朝は特

別に悪い。

「ゆうべ、僕なにかした?」

 朝食後にブリーフィングがあるので、起き出して、一緒にシャワーを浴びる。狭いブースで寄り添う

ように湯を浴びる。

 昨夜の余韻か、朝だからか、お互い少しその気になってる。

「アレルヤ。お前なんか夢でも見たのか。寝言、言ってたぜ」

ライルは僕の顔を見もしないで、首筋や胸を掌で擦っている。

「寝言ですか?」

「ああ」

「僕って寝言多いの? なんて言うの?」

「言うぜ。ハレルヤとか、マリーとか」

 ライルは、泡をたてて髪を洗っている。

 僕は、昨夜の夢を覚えていなかった。誰に抱かれているのか分からなくなるほどいかされた。頭のな

かが、真っ白になって、その後の記憶がない。覚えているのは、彼の吐きだしたものの熱と、終わった

あとのキスの心地よさくらいだ。

「ゆうべはなんて? 全然覚えてない」

「『もう、無理。ハレルヤ』って。すげえ、いろっぽい声で」

そう言うと、頭から湯をかぶり、僕に背を向けた。

「いや、全然、覚えてない」

 僕は、スポンジに、ボディソープの泡をたて、ライルの背を洗う。昨夜の名残が残ってないかチェッ

クをする。気をつけてはいるけれど、時々、僕は彼の背に爪をたてたり、項に唇の痕をつけてしまうこ

とがある。

「自分だって言うくせに」

「うそ」

 振り返ったライルの胸を洗う。少し赤い乳首を、円を描くように洗う。少し機嫌を直したのか、ライ

ルは掌に泡をたてて、僕を洗ってくれる。温かい指と柔らかい泡に包まれる。

「うそじゃありません」

 掌に包まれて、上から下に丁寧に洗われる。指が後ろに回ってきて、奥まったところをぬるりと撫で

る。そこは、まだ、あつぼったく熱を持っている。昨夜の残滓が、とろりと流れ出す。

「エイミーとか」

「妹だろ」

「ニール・・・とか」

「へえ、俺、兄さんのこと呼んでるんだ」

 ライルは僕を洗うけど、少し力が入りすぎている。わざとらしく後ろの蕾を撫でた指が、茎の部分を

扱いてくる。

「時々、ね」

 感じてしまいそうになるので、指を外そうとした。でも、逆に手を掴まれて、ライルを握らされる。

少し固くなって、泡を載せた頭をもたげている。

「だから、ハレルヤを呼ぶのを聞き逃せって?」

 ライルは、右手で僕を扱きながら、泡だらけの左手で胸を撫でまわす。指の腹で、胸の突起を潰され

る。白い脚が、腿の間を割ってきて、太腿に太腿があたる。頬を、ぺろりと舐められる。余韻の残る身

体は、たやすく反応して、僕はずくりと反応してしまう。

「ね、このあと、ブリーフィングでしょう。早く行かないと、朝ごはん食べそこないますよ」

「こんなにしてて、よく言う。・・・抜くだけだよ。アレルヤも、俺のしてくれよ」

 耳の下にキスされて、胸をぐりぐりとされれば、すぐに熱くなる。ライルのものは、僕の手の中で、

質量を増して育ち切っている。張り出した所に指をかけ、扱き上げた。

 長い睫毛が揺れて、白い顔が息を呑む。

「でも、僕の寝言で一番多いのは、ハレルヤじゃないでしょう」

「ああ」

 翡翠の瞳が、嬉しそうに細められて、笑う。僕は巧みな指先に捉えられて、弄ばれる。括れを撫で、

先のほうをくじられて、泡に粘つくものが混じる。ライルの左手の指が、蕾を押し開いて、中をかきま

わしてる。僕は、眼がちかちかして、白い肩に顎を載せて喘いだ。

「あ、ロックオン。・・・でる」

 僕がぶるり、と震えると、くっと低く声がして、僕の手の中の猛りも同時に弾けた。
 


 ブリーフィングルームには全員がそろっている。

 僕たちはきちんと制服を着ているけど、コーヒーを飲む時間しかなかった。

 ライルは神妙な顔をしている。

 スメラギさんが、シミュレーションプランと作戦行動の意味を説明する。

「この場合、予報で想定される敵の反撃パターンは・・・」

 僕は、スメラギさんの予報を信頼している。

 僕は時間があると、ワインを持ってスメラギさんの所に行く。話題は、MSのことや作戦のこと、ト

レミーの日常のこと、そして昔話。

 スメラギさんは、核心をついた質問こそしないけれど、いつも僕のことを気遣ってくれて、たいて

いのことをわかってる。

 時々、僕より僕のことをわかってるんじゃないか、と思う時がある。

 アロウズから奪還されて、トレミーに戻り、しばらくして、僕は彼女にこんな質問をした。

「あの、彼のこと、なんて呼んだらいいんでしょう。ロックオン? それともライル?」

 以前より守秘義務の制約はなくなって、とくに彼はそのあたりはフランクなので、クルーのなかに

は「ライル」って呼ぶ人もいる。

 同じロックオンでいいんだろうか、と思った。区別したほうがいいのかなって、その時は思ったの

だ。

 彼と彼は別の人だから。

「名前? ロックオンでいいんじゃない」

 大ぶりのワイングラスの赤ワインを舌の上で転がして飲み干すと、スメラギさんは、笑った。

「特に、あなたはね、アレルヤ。同じにしておいたほうが無難だと思うわよ」

 僕は、スメラギさんの予報を信頼している。

 限界離脱領域で助けてくれたのも、あの収監施設から奪還してくれたのも彼女の作戦だ。

 いつも、僕を救ってくれる。

「たいしたものだ、スメラギさんの予報は」

「なあに、アレルヤ? 質問?」

 ブリーフィングが終わり、それぞれが部屋から出て行こうとしていた。スメラギさんが、僕を振り

返る。

 戦術予報士というより、姉貴っていう感じで、僕に笑いかける。

「いえ。あなたの予報はいつも的確だな、と思って」

 立ち止って、話している僕たちを、ライルが振り返って見ている。

 スメラギさんは、僕とライルの顔を交互に見ると、楽しそうに笑う。

「経験豊富な戦術予報士ですからね」

ぽん、と僕の肩を叩いた。

                                   了  2010/08/26


                               


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