NOVELS


南の魚 2




 あれから、ロックオンとまともに話していない。
 
 視線は彼のことを追ってばかりいる。しかし、告げるべき言葉が見つからなくて、彼と二人になるこ

とを避けていた。

 ほんとうは、何と言えばよかったんだろうか。

 あの時の感覚が、まだ胸の底にわだかまっている。

 今度会ったら言わなくてはならない言葉があるはずなのに、それを素直に選択したくないこの気持ち

はなんだろう。

 アレルヤの独り言にハレルヤは答えなかった。




 王留美の用意した別荘はホテルのような大きさの建物で、本館とは別にビーチにコテージが点在して

いた。アレルヤはコテージの鍵を借りると、ひとり外に出た。

 月が出ていて、外は思ったより明るい。コテージまでの小道は、濃い緑のシダと肉厚の白い花に縁ど

られていて、潮風に甘い花の香が混じっていた。
 
 浜辺の流木に座り、魚座を探す。予測通りの場所に主星・フォーマルハウトを見つけた。この星を知

ったのがずいぶんと昔のことのようだ。宇宙で見るのと違って、地上では星はちかちかと瞬いている。

 初めて地上の基地に降りた時のことを思い出す。

 赤道付近の星空は、高緯度地帯とはまるで違っていて、他に光源のない孤島の空は美しかった。

「空って暗くないんだね。明るくて、手が届きそうだよ。あの星なんか綺麗だねぇ。名前あるのかな」
 
 子供のようにはしゃいで手を伸ばすアレルヤに、刹那はきょとんとし、ティエリアは眉をひそめ、ロ

ックオンは笑った。

「あれは、南の魚、フォーマルハウト。魚座の主星だ。お前さん何座?」

「何座って、なに?」

「星占いだよ。ちなみに俺は魚座だ」

「ロックオン!」

 ティエリアの叱声が飛ぶが、ロックオンはまるで気にしない。

「いいじゃねーか、このくらい。マイスターだって互いのことを少しは知りたいだろ。仲間なんだし

さ」

「俺は牡羊座だ」

 刹那の言葉にアレルヤは戸惑った。

「えっ、なに、みんな決まってるの? ティエリアは?」

「俺は秘匿する。そんな占いなど、ただの迷信だ。知る必要などない」

「どうしよう、僕知らないんだけど」
 
 あからさまにうろたえるアレルヤの肩を抱いて、ロックオンは波打ち際に歩き出し、他の二人に聞こ

えないように声を落とす。

「守秘義務って、ティエリアがうるさいからな。そっと教えろよ。お前さん、誕生日いつだ?」

「2月27日です」

「じゃあ、俺と一緒だな。魚座だ」

「一緒だと何かあるんですか?」
 
 お前、本当に知らないのな、と呆れたように言われてアレルヤは赤くなった。

「同じ星座ってことは、運命も一緒だってことさ」
 
 軽く片目をつぶってみせるロックオンの表情に心臓が跳ね上がる。赤くなった顔を見られまいと俯い

た。
 
 そんなアレルヤにはお構いなく、ロックオンは立ち止まると空を指差した。

「俺たちは、あの星に守られてるんだぜ」
 
 夜空にきらめく星を指すその指先を、アレルヤはただ見つめていた

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